転職するとき、仕事内容はよく見る。これまでの経験を生かせるか、どんな役割を任されるか。私もそう考えて、長く勤めた自動車部品メーカーから物流会社へ移った。
新しい業界で、事業開発や新規営業に取り組む。そのつもりで入社し、実際に提案から受注につながった仕事もある。これまでの経験を使える場面は、確かにあった。
それでも今、もう一度転職を考えている。仕事内容だけでは分からなかった、仕事の進め方の違いがある。そして、入社したときにはあったものが、その後なくなっていったという事情もある。
経験を生かせる仕事はあった
私は、どんな複雑な問題も、いったん図に表して分かりやすくしようとする。今の仕事でも、法令や税制、商流と物流が絡み、お客さん自身もうまく説明できないことがある。誰が何をするのか、どこで話がつながらなくなっているのかを聞き取り、図にまとめて一緒に見る。
お客さん自身も混乱して、うまく説明できなかった話が、図を見ながらなら議論できるようになる。必要な情報は通関や財務などの専門部署に確認し、自分で全体を組み立て、採算を計算して提案する。入社して最初の頃は、そうした進め方で受注に至った案件がいくつかあった。
だから、業界を変えたことが間違いだったとは思っていない。物流を知る機会になったし、自分の経験が別の分野でも役立つことは分かった。一方で、社内での仕事の進め方には、前職との違いを感じる場面があった。
返信は来る。でも、話が進まない
日々のメールのやり取りは、その一つだ。
前職では、メールでやり取りを続けていると、「いつまでメール打ってるんだ! メール打つ暇があるなら関係者集めて議論しろ!」と怒られた。届いたメールに即返信すれば、逆に「こいつはずっとPCの前に張りついているのか?」と思われるぐらいだった。現場へ行き、必要な人と直接話して、問題を前に進めることが求められていた。
今の職場は、その逆に近い。とにかく早く返信することが重視される。ところが、返ってきたメールを読むと、こちらが聞いたことへの答えになっていない。返信したという証拠を残すため、届いたメールを処理するためだけに返しているように感じることがある。
結局、何往復もやり取りしなければならない。「メールは見ているかもしれないが、読んでいない」。私にはそう感じられた。物流も本来は現場の仕事のはずなのに、メールを返すことが優先され、肝心の問題が残ってしまう。
決めたはずのことが、いつの間にか変わっている
倉庫のレイアウトや、お客さんの貨物をどこに置くか、ラックを入れるかどうか。現職では、こうしたことを関係者で話し合って決めても、後から覆ることが何度もあった。
全員で意見を出し合って決めた、と思っていたのに、一週間もすると知らぬ間に変わっている。後から反対意見が出ることもある。その本人も、会議に出席していたにもかかわらずだ。
前職では、企画を上申する前にリスクや収益性を試算し、上司にも見てもらっていた。「これならいける」とハンをもらったものを、案件の規模に応じて本部長や社長へ上申する。一度決裁を得たものを勝手に覆せば、「ちゃんと考えてなかったのか」と思われるため、事前に時間をかけて詰める必要があった。
その分、承認後は話がしやすい。途中の微修正はあっても、関係者や関係部署が同じ方向を向いて動いていく。現職で、会議の合意や現場の決定が上の人の鶴の一声で変わるたびに、その違いを感じる。
状況が変われば、見直しが必要なことはある。それでも、決めたことが繰り返し戻ると、何のために集まって話し合ったのかと思う。現場で検討したことも、そこにいる人も、尊重されていないように感じた。
手順書があっても、問題が解決するとは限らない
問題が起きたら原因を考え、対策を実行して、結果を確かめる。前職で身につけてきたこうした考え方を、私は今の仕事でも使おうとしてきた。しかし、なぜ起きたのかを分析するより、勢いで「これでいいや」と進んでしまうように感じる場面がある。
社内監査をパスするための作業手順書の整備や、実態と合っていないルール。問題を解決するためではなく、責任を転嫁するためにルールを作っているのではないかと思うこともある。手順書があることと、その手順で現場の仕事が回ることは別だ。
入社したときの前提は、そのまま続かなかった
こうした進め方の違いに加えて、働く環境の変化も重なっている。入社当初から私の仕事に理解を示してくれていた上司が帰任し、後任になってからは支援を得にくくなった。相談しても、以前議論したことを覚えていなかったり、こちらの話が伝わっていなかったりする。「相談したつもりが相談にならない」と感じることが増えている。
次第に中国経済の悪化に伴い、収益にも影響が出始める。チームのメンバーも退職や契約更新のタイミングで打ち切りとなり、減らされていった。減っていったのは、幹部候補として仕事を担っていたメンバーたちだ。会社の方針で補充はされず、既存顧客のトラブル対応も自分がやらなければならなくなる。新規営業に使える時間は、少しずつ削られていった。
既存顧客への対応が嫌なわけではない。それも必要な仕事だし、これまで経験してきた。ただ、もともと取り組むはずだった仕事が、日々の対応の後にしかできない状態になっていた。
こうしたことを振り返ると、全部を「入社前にもっと確認しておけばよかった」とは思えない。仕事の進め方は、実際に働かないと分からない部分がある。上司の異動や人員の変化も、入社前の確認だけで見通せるものではない。
入社時に聞いていた話と違うこともあれば、入社時には成り立っていた話が、後から成り立たなくなることもある。私の場合は、その両方が重なっている。
できる仕事でも、続けたいとは限らない
自分のやり方がどこでも通用するとは思わない。それでも、問題を筋道立てて考えること自体が受け入れられないと感じる環境では、力を発揮しにくい。仕事内容だけでなく、会社の中で何が重視され、どう物事が決まるかも、自分との相性に関わっているのだと思う。
こうした相性は、業界名だけでは分からないと思う。同じ業界でも会社によって違うだろうし、別の業界でも考え方が合う職場はあるはずだ。私自身、経験を生かせる仕事があったからこそ、仕事内容とは別のところにも相性があると気づいた。
入社したときには、ここで新しい仕事をしていこうと思っていた。その気持ちがあったことと、今はここで先のキャリアを描けないことは、矛盾しないと思っている。実際に働いて分かったことがあり、働く前提も変わったからだ。
できる仕事だから、これからも続けたいとは限らない。今の環境で自分が何を積み重ねられるのかを考えた結果、私はもう一度、働く場所を選び直そうとしている。
