「資料は料理だ」——バンコク駐在時代の鬼上司に教わった、AI以前の言語化術

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「資料は料理だ」——バンコク駐在時代の鬼上司に教わった、AI以前の言語化術

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「言語化が苦手なリーダーは多い。でも今は、AIがその壁を取り除いてくれる時代」——以前、あるSNSでこんな趣旨の投稿を見かけて、前職のバンコク駐在時代の上司を思い出した。

資料作成に、人の何千万倍もこだわる人だった。そして当時の私は、その上司に心の中で猛烈に反発していた。

「料理の見た目が不味そうだったら、食う気にならないだろう」

その上司の口癖はこうだった。

「俺は、資料は料理だと思ってる」
「料理の見た目が不味そうだったら食う気にならないだろう。資料も同じだ」
「見た目の悪い、訳のわからん資料なんてな、役員クラス以上の忙しい人たちになってくると、見る気にもならねえんだ」

当時の私は心の中でこう毒づいていた。

——貧乏人は、不味くても出されたメシはありがたくいただくんだよ!!!

正直、面倒くさかった。この会社の報告書や企画書は、パワポではなくエクセルでA4やA3一枚にまとめるのが文化で、その一枚に数週間かけるのがほぼ当たり前。その時間が嫌で嫌で仕方なかった。

「しゃべりが下手なやつは、資料を用意するしかねえんだよ」

でも、この上司のこだわりには、ちゃんと根拠があった。ある日こう言われた。

「あのな、しゃべりが上手い人は資料なんてどうでもいいんだ。資料がなくたって説得できれば、それでいい」
「だけどな、お前はしゃべりが下手くそなんだ。それに、しゃべりが天才的に上手いやつなんて、そんなにいねえんだよ」
「しゃべりが下手なやつはな、事前に、わかりやすくて説明しやすい資料をしっかり用意するしかねえんだよ」

ぐうの音も出なかった。

トークだけで、役員や社長・会長が出てくるような営業企画会議を乗り切る。そんな芸当が自分にできるはずがない。それは社内だけではなく、お客さんを説得するときも同じ。しゃべりで勝負できないなら、その場に出す前に、考え抜いたものを紙の上に置いておくしかない。

資料作りとは、清書ではなく言語化そのものだった。数週間かかっていたのは、エクセルの一枚に収める体裁づくりではなく、「自分が何を言いたいのかを自分で突き止める」作業だったのだ。

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A3一枚に、4週間

その数年後、私は上海に赴任した。そこで、中国東北部にある関連工場の存続をかけた企画会議を主導することになった。

4週間以上かけて事業採算性を検証した。毎日のように夜中12時を過ぎるまでシナリオを考え、最後はA3一枚の企画書にまとめあげた。

それが通ったとき、涙が出そうになった。

しゃべりで通したのではない。A3一枚に詰め込んだ言語化が、工場の存続を決める人たちを動かした。バンコクで反発していた「資料は料理」の意味が、このとき本当にわかった気がする。

AIが壁を取り除く時代に

当時はAIなんてない時代。数週間の言語化を、全部自力でやるしかなかった。

今は違う。冒頭のSNS投稿のとおり、言語化が苦手でも、AIが壁をかなり低くしてくれる。考えを投げれば構造化してくれるし、下書きも一瞬で出てくる。あの頃の自分に教えてあげたいくらいだ。

ただ、AIが肩代わりしてくれるのは「言葉にする作業」までだと思う。

何を言いたいのか。誰を、どう説得したいのか。どのシナリオなら通るのか。ここを考え抜くのは、今も昔も自分の仕事だ。あのA3一枚の中身は、AIがあっても、やっぱり自分で夜中まで考えるしかなかったと思う。

言語化の壁が下がった今こそ、「しゃべりが下手なやつは、資料をしっかり用意するしかねえんだよ」という言葉は、むしろ重みを増している。壁が低くなったぶん、やらない言い訳がもう、ない。

2026年7月時点では、あの鬼上司は上海で中国地域全体の統括会社のトップに就いていた。同じ街にいたものの、まだ遭遇していなかった。

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